東京農業大学の森林生態学研究室の博士前期課程に所属する長谷川綾香さんの所属するタヌキ研究チームは、都会のタヌキの生態を研究中。大学での調査研究のようすをのぞかせていただきましょう。
研究背景と目的
タヌキは人口密度の高い都市部でも生息している中型哺乳類です。実は東京にもタヌキはたくさん生息していますが、都会のタヌキの生態を研究した事例は多くありません。そこで都市部のタヌキの行動生態や育児行動の解明を目的として、多摩川周辺で調査を行いました。
意外と広いタヌキの行動範囲・・
多摩川近くで捕獲したタヌキに発信器を取り付け追跡したところ、そのタヌキの行動範囲は、約43 ha(東京ドーム9個分以上!)。町中から河川敷まで利用していました。 (実線:行動範囲、破線:よく利用するエリア、★:タマエスティ国際学生会館のタヌキの育児場)
タマエスティ国際学生会館にタヌキの育児場が・・
発信器の電波をさらにたどっていくと、タマエスティ国際学生会館の横のコンクリートの側溝がタヌキの育児場、休息場になっていることが判明しました。ここは人が近づく事の無い多摩川の土手の下。人間さまに迷惑はかけません。
日中に子タヌキが撮影された様子。成獣のタヌキと比べて、幼獣個体の方が日中に撮影される頻度が高い。
センサーカメラの設置
そこで、育児巣穴となる側溝の入口に夜間に動物を自動で撮影できる赤外線センサーカメラを設置したところ、タヌキの生活を映像にとらえることに成功しました。
タヌキの夫婦の毛づくろい
成獣のタヌキのペアが毛づくろいをしている様子。タヌキはペアで子育てを行い、子育てが終わった後も一緒に行動することが多い。
タヌキの授乳
母タヌキが子供に授乳する様子。
家族大集合
母タヌキ(首輪付きの追跡個体)、父タヌキ、子タヌキたちが同時に撮影されている。子タヌキたちはミルクが欲しくて母タヌキに群がっている。しかし、基本的に授乳時以外は子タヌキは父タヌキと一緒にいることが多い。
交通事故で母タヌキが・・
追跡を始めてから約三か月。母タヌキが交通事故にあい、死亡しました。
子タヌキたちも親と離れて行動し始めた時期であり、授乳期を終えていたことが救いです。今後も残された子タヌキたちや父タヌキの観察・研究を続けます。
このプロジェクトから得たこと
母タヌキは育児期初期に行動圏や活動時間を拡大していました。そのため、朝方まで活動し、地元住民と遭遇する確率も増加していました。一方で育児期後期になると行動圏や活動時間が減少しました。授乳の必要性が無くなることなどが要因だと推測されます。また、子タヌキたちは母タヌキよりも父タヌキと一緒の時間を過ごすことが多かったです。
以上のことは農村地域や飼育個体のタヌキにも同様にみられています。今後、人間の影響を具体的にタヌキの生活のどの部分に受けているのかをさらに調査を進めていきます。